学会資料

パワーリハビリに限界を感じたことからの学び

1.はじめに
今回パワーリハビリテーション(以下PR)を運動的手法としてしか捉えておらず、心理的・社会的要因を見落としていた為に意欲が低下した脳卒中後遺症の利用者に対し、心理的・社会的要因を見直す事で障害の受容から意欲の向上へと至ったケースを経験したので若干の考察を加え報告する。

2.事例紹介
・男性:85歳 要介護度1
・病名:脳出血後遺症
・障害高齢者の日常生活自立度:A2
・認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅰ

7人兄弟の長男として生まれ、仕事は農家を営んできた。性格は真面目で責任感が強く長年役員や区長も務めてきた。
平成24年5月高血圧症と動脈硬化が原因で小脳出血を発症する。痛みや拘縮はないものの、左上肢の細かい動きが困難であり歩行時に不安が残る為リハビリ目的で当デイサービス(以下DS)利用開始となる。

3.ケアプラン
小脳出血の影響から歩行不安定となり、今後更に歩けなくなるのではないかという不安の声が介護者・本人より聞かれた。排泄時にも介護者の手を借りなければならないという状況だった。その為ニーズを排泄の自立と歩行能力の改善とし、利尿剤を使用している為水分1日1800㏄以上を目標として普段の体調管理を行いながらPRと屋外歩行に取り組んだ。

4.ケア方法・展開
PR開始時、四点歩行器にて歩行されるが歩行不安定の為見守りが必要だった。トイレでの排泄は可能だが手すりに摑まらないと転倒の不安がある為ズボンの上げ下げにも介助が必要だった。リハビリは意欲的であり歩行距離も増えていった。3ヶ月後四点歩行器が外れ、立位や歩行が安定した事で一人でもズボンの上げ下げが出来るようになり排泄の自立が可能となった。
一年が経過し、安定した歩行が出来るようになったが本人より転倒の不安が継続して聞かれ、悲観的な言葉も聞かれるようになり〝ふらつきが取れず、これ以上リハビリを続けても良くならない〟とPRの効果に限界を感じる言葉も聞かれるようになった。その後も氏の意欲低下が続いた為再アセスメントを行った。
障害を負った事で今後の不安を口にする事から本人のストレスにニーズがあると捉え、他者との交流や意識を外に向ける事を目的として地域行事への参加を提案する。友人との社会参加が氏の意欲向上やストレスの軽減に繋がるのではと考え、当DSを利用されていた氏の学生時代の先輩に共に地域行事へ参加してもらうよう促した。氏より「先輩となら参加してもいい」との返答があった為先輩とY町で毎年行われているウォーキングイベントへ参加する事となる。当日、歩き始めは〝ゴールできるか不安だ〟との声が聞かれたが「俺も頑張っているから一緒に頑張ろう」との先輩の励ましに対し、氏も「先輩には負けられない」という言葉が聞かれ、励まし合いながら3.5㎞コースを歩ききる事が出来た。

5.結果
PRと歩行を行うと共に、水分量も増えた事で3ヵ月後には身体能力の改善とやる気スコアでの向上がみられた。しかし、12ヵ月後の評価で更なる身体面での向上があったが、やる気スコアでは28点と意欲の低下がみられた。15ヵ月後地域行事への参加によりストレスが軽減した事で再び意欲が向上しやる気スコアでも改善がみられた。

パワーリハビリに限界を感じたことからの学び

6.考察
竹内はかつてあった歴史的自己、今ある現在の自己のギャップが大きいと受容が難しくなるとし、人は他人からその価値を指摘されて初めて自分の価値を発見すると述べている。本事例では、PRを行う事で身体的な改善には至ったが、氏が真面目な性格だった故にかつての自己と現在の自己とのギャップを埋める事が出来ず、今後の不安からストレスが生じた事で意欲低下へと繋がっていった。
しかし、氏の昔からの友人との地域行事への参加を通し、気分転換が図られるのと同時に、互いに励まし合い称賛し合う事で再び現在の自己に価値を見出すことが出来た。
新しい自己に価値を見出した事で障害を受容する事が出来、障害の受容から意欲の向上へ繋がったと考える。

動画はこちらdown.gif
【利用開始時】 ・ 【15ヵ月後】  ・ 【ウォーキングイベント参加】

 

後藤 恭平(介護員) ・ 門崎 弘恵(介護員)