学会資料

デイサービスにおける閉じこもり症候群へのケア

1. はじめに
人間は社会的動物であり、人は社会関係の中において(その位置と価値を通して)はじめて個として存在しうるとされている。今回、閉じこもりの生活となった利用者に対し、社会参加から健康的な生活の回復につながったケースを経験したので若干の考察を加えて報告する。

2. 事例紹介
・男性・88歳・要介護度2(H22・8要介護1に改善)
・病名:アルツハイマー型認知症
・障害高齢者の日常生活自立度: A1                              
・認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅲb                              
趣味は読書や物書き、若い時は町会議員選挙の応援に積極的に参加するなど、真面目で曲がった事が嫌いな性格。平成21年12月体調不良で入院。その後退院するが体調戻らず、デイサービスに行く事を拒否し閉じこもりの生活となる。また「夜間不眠・元気がない・食欲がない」という症状が見られ、意欲の低下から「もう死にたい」といった言動が聞かれた為再アセスメントを行う。

3. ケアプラン
「夜間不眠・元気がない・食欲がない」という症状より、ニーズは「ふだんの体調」と「歯と口腔」とし、「水分・活動・歯科受診」をケアプランに挙げるが、本人の強い拒否がみられた為、「ふだんの体調」と「歯と口腔」は暫定プランとし、困難性の解決として「本人の価値観」をニーズに挙げ信頼関係作りに着手する。

4.ケア方法・展開
開始時、退院後、様子が気になり担当職員が訪問するも「苦しい、水なんか飲めない」と意欲低下が感じられた。その後、幾度となく訪問するが「デイサービスは寒いから春になるまで行けない」と否定的な言動であった。1ヶ月後、本人の気持ちを外に向けようと信頼関係づくりに努め、“本人が受け入れてくれる外の世界は何か”と援助者の視点を切り替え、本人の人生史より「本読み、物書きが好きだった」ということからデイサービス通信の記事の連載をお願いする。本人は「上手く書くことができないから駄目だ」と自信なさそうな返答であったが、編集はこちらでやることを伝えると「そこまでしてくれるのなら」と積極性が現れ、それがきっかけとなりデイサービス再利用となる。2ヶ月後、職員と通信の編集のやり取りで役割意識がめばえてきた。通信効果もあり最近のニュースを話題にされことからデイサービスの帰りに演説して頂くことになり、デイサービスでの存在感が増していった。3ヵ月後、他の利用者から「通信をいつも読んでいる」と声をかけられたことでさらに意欲的となり、デイサービスを利用されない日も、自宅で「次の演説や原稿の準備で忙しい」と笑顔で過ごす日々が続いている。

5. 結果
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デイサービス再開による社会参加と、そこで生まれた役割により本人の意識が外に向き始め、自ら歯科受診に通うと同時に、再開4カ月後には水分量、活動量が増え、「夜間不眠・元気がない」という症状は改善した。「食欲がない」という症状は、現在歯科治療を終え、お粥食から常食へ変更となり摂取カロリー数は改善しつつある。

 6.考察
竹内は「意欲は身体障害や病や老いに対する受容の産物のひとつであるとし、障害や老いの受容とは、その体を引き受け、それを土台として自分と世界とを再構成していくことである。またその手がかりは再び現在の自己に価値観を見出すことだが、その価値のレッテルは他人の手によってしか貼られない」と述べている。本事例は、急激な身体的活動性の低下が老化に対する適応を阻み、援助者側の健康的な生活の回復に向けての社会参加という提案は受け入れてもらえなかった。これに対し、デイサービス通信の記事の連載という役割を通しての社会参加から共感的世界が生まれたことは、本人の社会から遠ざかろうとする状況に対し、心理的な立ち直りを促すとともに、本人の健康的な生活の回復という行動の動機づけになったと考える。