歩行障害が改善された事例

氏名:A氏(女性、72歳)
要介護度:3
障害老人の日常生活自立度:B2
認知症老人の日常生活自立度:自立

生活及び家族状況

地元酒田市生まれ。夫と結婚後から自営の農業に従事し畑、田んぼ仕事と家事全般を本人が行われていた。長男結婚後孫2人の育児にも協力的であり、家族関係は良好。自営の農業については、本人、夫、長男夫婦と市内に嫁いでいる娘で出荷作業を行っている。本人は社交的で明るく話好きであり、地域での交流や夫との外出など社会交流について楽しまれていた。4年前までは夫の母親を10年以上も介護していたこともあり仕事、家事、介護と身体を酷使したことで腰痛、頚部痛にて定期通院をしていた。

相談の経緯

平成20年5月中旬に腹痛を伴う体調不良があり、自宅療養をしていたが同月25日夜間、廊下にて転倒し足に力が入らないため立ち上がりが出来ず、歩行困難。病院での検査と診察の結果、内科的疾患ではなく腰部に原因があると説明を受ける。手術が必要と説明を受けるも本人は消極的で現状からの内服管理とリハビリによる回復を希望される。主介護者である夫からは、日常生活全般で介助を受け、家事については同居している長男の嫁が代わりに行う。今後の生活に向けて環境整備が必要と市内の福祉用具貸与事業所にてポータブルトイレ、シャワーチェア、車椅子の購入について検討し担当者より介護保険の利用を勧められる。

平成20年6月2日に本人より、「歩行が出来なくなったから自分で自分のことをすることが出来ない」と直接連絡をいただき介護保険の利用について相談を受ける。

健康状態(疾病状況)

  • 平成14年 変形性腰椎症
  • 平成18年 頚椎症性神経根症
  • 平成20年5月 両下肢麻痺(神経圧迫)
    身長 154cm・体重 82.4kg・BMI 35

バイタル

体温36.7℃
血圧 127/84
脈拍 100
水分量 990cc
食事  1500kcal
排便  2日1回
運動 自室内閉じこもり

内服薬

筋緊張疼痛改善剤
ミオナール錠50㎎ 食後3回
デパス錠0.5mg 食後3回
抹消神経科改善剤
メチコバール錠500μg 食後3回 湿布薬

認知症の症状

なし

ADL

歩行:立位とれず出来ない
移動:車椅子にて全介助
排泄:オムツ、ポータブル、排便は自宅トイレ
食事:自立
入浴:自宅入浴が困難(全介助)
着脱:介護者からの見守り

IADL

家事:長男の嫁
金銭管理:夫

社会交流・経済など

本人:地域との交流や農作業 ドライブ、買い物
夫:自営(農業)
経済状況については、特に問題なし

家族構成

本人
夫(主介護者)
長男夫婦
孫2人 

援助の過程とまとめ

【計画作成の考え方】

初回訪問時、本人から歩行困難となり「立ったり、歩いたりすることがダメになってしまった、家族に迷惑をかける」と悲観的な言葉が聞かれた。本人が72歳と比較的若く、後天的な障害(生活上の制限)による言動と捉え、受容の促進と新しい共感的な仲間作り、人生の再出発にむけた積極的な支援が必要と考えた。

本人が以前講演で「パワーリハビリをして元の生活に戻れたと聞いている。私も取り組みたい」と意欲的に話されたが、夫は、「無理はするな。できる範囲で生活していければいい」と庇護的に話され本人に対する諦めがみられた。これは、夫婦の相互の価値に違いがあり、自宅での役割変化にともない、位置と価値にズレが生じ、人間関係の不明につながったと考える。ストレスに対し、リハビリの専門性、進捗状況、回復状況など職員、ケアマネが本人との仲介役をすることで客観視(夫には見えない妻の姿)できる情報交換が必要と考えた。

夫からの介助を受けてオムツ、ポータブルに排泄であるため、普段の体調管理である、水分を制限していると考え、水分摂取量1日1500ccと設定し、通所利用時、自宅でも水分の重要性を説明。運動活動が困難であったことから、低活動による低体力と考えた。

夫からの動作介助を必要としていたことから、入浴はサービス利用時に行う必要があると考えた。

以上のことから、ニーズは、①普段の体調管理②自立重度化予防③動作別介護負担④本人、家族のストレス軽減が上げられた。

【ケア方法・展開等】

平成20年6月12日(利用2回目)話さない)

通所サービス利用2回目。水分摂取量1250cc、昼食全量摂取、パワーリハビリ開始と本人の下肢状態を確認する為、立位5秒テストを行う。全介助ではあるが、つかまり立ちが可能であったため、歩行補助具(歩行器)を利用し5mの歩行が可能となる。他利用者とのなじみの関係作りに向け職員が間に入り、また夫に対し利用状況について説明する。本人より「今日は楽しかった」と言葉を聞くことが出来た。

平成20年7月(2ヶ月後)

利用回数増にて週2回の通所利用。通所利用時に、排泄の準備動作(ズボンの上げ下げ)を練習すると意欲的に取り組まれる。夫からは「転ぶと大変だから歩くな」と不安が強く聞かれたことから、職員と共に送迎時、訪問時本人利用状況と回復状況の説明を行い、本人を客観視できる情報交換を行う。

平成20年9月(4ヵ月後)

歩行器使用にて屋外歩行160メートル。自宅から杖を持参し移動時に使用。同年代である他利用者と親しみのある関係が出来、会話を楽しまれる。身体状況の改善と精神的な安定が見られたことから、家事役割や農作業の再開に向けて穏やかに話される。通所職員から、体調管理の重要性を説明されたことで、勉強になるのでいろいろ教えてほしいと話される。

平成20年10月(5ヵ月後)

通所利用時の歩行が安定され、表情が明るくなる。自宅内で起立や歩行について支えが必要ではあるが、以前くらべ安定感がある。介護者の不安は見られていたが、自宅内での歩行にむけリハビリ担当職員と相談し歩行器レンタルを検討。事業所へ連絡をいれ、デモ利用を開始。サービス利用時には他利用者から元気になったといわれ、喜ばれる。

平成20年11月(6ヶ月後)

身体状況確認と福祉用具貸与について担当者会議を開催。自宅内、歩行器にて移動が可能。本人の意欲的な行動は見られるが、膝おれが不意にあることから移動には無理せず這う、車椅子、歩行器と本人の状態に合わせて利用される。通所利用時には、本人持参の2本杖で移動可能であり「歩けるようになってうれしい」と話される。介護者から「よくなっているのは分かるが、無理はするな」と注意を受けるも、本人の歩行能力向上と職員の関わりに感謝され、穏やかな表情で話される。

平成20年12月(7ヵ月後)

歩行能力が向上し安定したことで日常的に利用できるシルバーカーの検討を行い、購入。用具の返却を行う。サービス利用時には、杖歩行のみで職員からの見守りを受けるも安定した歩行となる。精神的なゆとりがみられ、利用者間での談笑や他利用者への協力が見られるようになった。

平成21年1月(8ヵ月後)

定期通院にシルバーカーで来院。主治医より本人の状態を見て「すばらしい」との褒め言葉に本人喜ばれる。夫のストレスは、職員との情報交換や本人の状態改善を見ることで「こんなに元気になるとは思わなかった」と本人の位置と価値が家庭の中で変わっていることを感じさせた。スーパーや郵便局など社会参加も可能となり、本人の行動範囲が広がる。正月に自宅入浴ができたことを大変喜ばれ、サービス利用中の入浴を中止される。

平成21年2月(9ヵ月後)

以前のように夫と一緒に買い物に行かれている。同じ部落内でお茶飲みなどの交流をもたれ、自宅内での家事役割や農作業の復帰に意欲を見せ、嫁と相談しながら家事業務の手伝いをおこなわれる。サービス利用時には、他利用者への気遣いや協力など積極的に行われる。

平成21年4月(11ヵ月後)

本人の身体状況は自立され、家事や農作業の手伝いができること、車の運転を本人が行えたことで復帰の自信を持たれ4月の利用をもってサービス利用を卒業される。本人より、「転倒する以前より体調が良く、歩けることがこんなにうれしいと思わなかった。」これからは、通所サービスで聞いた考え方(普段の体調管理による水分、食事、排泄、運動)を自宅でも取りいれ、自立した生活をつづけていきたいと前向きな言葉を聞くことが出来た。

結果

普段の体調管理(水分摂取量、食事摂取量、排泄、運動)

  開始時 6ヵ月後 11ヶ月後
水分

1400cc通所利用日
1150自宅

1529cc通所利用日
1000cc自宅

1433cc通所利用日
900cc自宅

食事 全量摂取(常食) 全量摂取(常食) 全量摂取(常食)
排泄(便)

2日1回

2日1回

毎日
運動、活動

歩行訓練開始
パワーリハ開始

歩行訓練540m
パワーリハ6機種

1940m屋外歩行
パワーリハ6機種

体重 80.9㎏ 81.5㎏ 85.5㎏?
BMI 34.1 34.4 36.1
移動・歩行能力

屋内 這う
屋外 車椅子

屋内 歩行器歩行
屋外 車椅子

屋内杖歩行
屋外 シルバーカー

考察・まとめ

今回の事例では、低活動、低体力、歩行能力改善に向け、パワーリハビリによるふだん使わない筋肉を軽負荷で動かしていくことで身体的動作性、筋肉の再活動の向上が得られた。また、本人の状態を確認しながら、福祉用具を活用したことで、安定した歩行が可能となった。

意欲については、軽負荷運動による神経筋接合部における化学物質(アセチルコリン、SNRI)の相乗効果が、不安と抑うつ状態を解消し、同年代で同病者、同じ悩みを抱えた者どうしの触れ合いにて、心理的に立ち直るピュアカウンセリング効果を得ることが出来たことが、前向きで積極的な言動につながったと考える。

利用当初みられた夫から妻に対する諦めの言動は、長年連れ添った妻をこれ以上悪くしたくないと言う愛情の裏返しと言え、通所職員、ケアマネと定期的な接触にて利用状況と状態の回復を知り、本人が他利用者を介助するという昔に行われていた妻の姿を回想することで、本人を客観的に見えるようになり、夫婦の位置と価値が以前と同様に戻っていったと考える。

今では、一緒に家族で農作業を行いながら、嫁の家事を手伝い安定した家族関係ですごすことが出来ている。

地域交流を図りながら、夫と畑に行った帰りに、海を眺めてくるのが何よりも楽しみになっている。

まとめ

今回の事例から学んだことは、当たり前のことですが、本人主体のマネジメントです。自立した身体状況に改善できたとしても、家庭での位置と価値が低下したままでは、相互の価値に変化はなく、本人の苦悩した状況は続いたと考えます。これからの支援業務では、麻痺や生活障害が残ったとしても、円満な家庭生活に向けて、本人の位置とかちを高めることを目的に福祉サービス(通所サービス)の利用をおこなっていきたいと考えます。

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